家に行く?行かない?

落ち込みはするがこの恋、まだ終わってはいない。何度かデートを重ね、お泊りもし、うちにもお呼びしている。彼はますますの好感度で「この話なかったことにしたくない願望」は強まる一方。

さていよいよ彼のおうちにお呼ばれする運びになった。

 

私は潔癖症で通っている。アトピー持ちには常識だが、私たちは24時間常に清潔な環境で暮らさなければならない。外部からの刺激だけではなく、自分の汗でさえ痒みの原因になるのだ。「潔癖症」という言葉を知った時、その万能な使いやすさに小躍りした。人に伝えるにはよっぽど簡単でわかりやすいし、わざわざコンプレックスを披露しなくて済む。

潔癖症に家に来られてはたまらん、と人の家に呼ばれることもなく、行きたいと申し出た場合のみ「掃除頑張っておくけどあまり見ないでね」と誰もが構えてくれる。(迷惑な女だな、ホントごめん)

男の部屋もしかり。「行っても良いけど嫌いになるかもしれないよ?」脅すとじゃあホテルでいいです、となる。それでも若い頃は何度か挑戦してみたこともあった。行くと決めたは良いものの、玄関でやっぱさいなら!と踵を返し逃げ帰ったこともある。大掃除をすれば何とか、と掃除用具一式持ち込んで頑張ってみたこともあるけど、キレイにしたとてそんなもんは大抵1ヶ月と持たないし、とっくに100年の恋も冷めてるしで良いことなんてありゃしない。

見たくないものは見ないで良し、がポリシーとなっていた。

 

今回はどうだろう。ビビビと来た彼。交際期間若干1ヶ月。

一歩先に踏み込むにはちょっと早い気もするが、少し気になっていることがあった。何度も乗せてもらっている彼の車。車内はいつもピカピカで犬の毛1つ落ちていないのだ。犬を飼ってるようには思えないんだけど?と聞くと、この車には乗せてないからと答えた。

それだけではない。抱きしめられても痒くなったことがないし、彼から犬の匂いすらしたことがない。私のアレルギーセンサーは精密なのだ。こうなってくると本当に飼っているのかも怪しくなってきた。

昨今ペット男子(オヤジも含む)というのは増えている。

「エサやらなきゃだから帰るね」

お泊まりをした朝の常套句だ。ハイハイ、どうぞお帰りよ。中には犬じゃなくお前が女房にエサもらう時間なんだろ?というのもあったなぁ。シッシッ!早よ帰れ!

 

今回の彼も彼奴等同様、同じセリフを吐き昼前には帰って行く。夜はエサをやってから出るねと言う。だけど全くもって犬の匂いがしない。

確かめよう。本当に犬がいるのかいないのか。犬という名の女がいやしないか。はたまたどんな暮らしをしているのか。

知りたい。

例え残念な結果になろうとも、ちゃんと自分の目で見て納得したい。見たくない、から見てみたい、に変わっていた。

 

〈2018年9月 西武新宿線ホームにて〉

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